インフルエンザ予防の目安は絶対湿度!気温は無関係!夏にも流行る訳は?
インフルエンザは、日本では冬に流行しますよね。それはインフルエンザウイルスが低温・低湿度を好むからだといわれています。
日本のような温帯地域では、インフルエンザは冬の乾燥時期に流行しますが、北半球の熱帯・亜熱帯地域では、雨季にインフルエンザが流行しやすいといわれています。
しかし、インフルエンザウイルスが低温・低湿度を好むという理論では、熱帯・亜熱帯地域の雨季のインフルエンザの流行を説明できません。
そもそもインフルエンザの流行因子とは、湿度と気温の両方なのでしょうか。また熱帯地域の雨季にインフルエンザが流行するのは、なぜなのでしょうか。
今回はインフルエンザの流行と湿度・気温との関係について調べてみました。
目次
インフルエンザの流行は絶対湿度で予測できる!気温は無関係

日本を含む温帯地域では、低温・低湿度の冬にインフルエンザが流行するため、インフルエンザの流行に関係してるのは、湿度と気温の両方だと思われてきました。
そのため、インフルエンザの流行に関する過去の研究の多くは、気温によって変化する相対湿度に注目したものがほとんどでした。
それらの研究の中でも有名なものが、1961年にG.J.Harperらによって発表されたものです。
G.J.Harperらは、インフルエンザウイルスを実験装置に浮遊させ、気温と湿度を変えて6時間後のインフルエンザウイルスの生存率を調べました。結果は次のとおりでした。
温度21~24度、湿度50%に保ち、6時間後にウイルスの生存率をみると3~5%であったのに対し、湿度を20%に下げるとウイルスの生存率は60%になりました。
また温度7~8度の低温で湿度50%以上における6時間後のウイルス生存率は35~42%でした。同じ温度で湿度を22~25%に下げると6時間後のウイルス生存率はなんと63%でした。一方、温度32度、湿度50%では6時間後のウイルス生存率はゼロでした。(引用:日経BPnet)
上のデータは、一見したところ、インフルエンザウイルスが低温・低湿度では比較的長時間活性を保ち、高温多湿では生存できなくなるという説に見事に符号します。
しかし、その後、さらに研究が進み、インフルエンザの流行には「気温の変化によって変わる相対湿度よりも気温に無関係な絶対湿度が深く関係している」ということが分かってきました。


天気予報で私たちが耳にする湿度というのは相対湿度のことです。相対湿度は気温によって変わります。
その気温において、空気中に含むことができる最大の水分量を100として、実際はどのくらいの水分を含んでいるかを比率(%)で示した値のことです。
気温が高いほど、空気は多くの水蒸気を含むことができ、気温が低いほど空気は少しの水蒸気しか含むことができません。つまり同じ湿度50%でも、気温30℃の時の水分量は 15g、気温20℃の時は 8.5gとなり、同じ湿度50%でも気温が違えば含まれる水分量も違ってきます。

ちなみに絶対湿度は、インフルエンザの流行だけでなく、のどの乾燥にも関係してきます。
相対湿度と絶対湿度の違いが分かったところで、次に、インフルエンザの流行と絶対湿度との関係について、さらに詳しく見ていきましょう。
インフルエンザ予防は絶対湿度を11g/m3以上に!

インフルエンザウイルスの流行に、もし気温が関係しているのであれば、日本の場合、約 5℃以下になるのは北の地方からで、インフルエンザの流行も北の地域から始まって南下していくパターンになりそうなものですが、実際には流行は必ずしも南下していませんでした。
そこで庄司真医師が、日本各地(沖縄を除く)の気象とインフルエンザの関係を調査した結果、インフルエンザの流行は、気温に依存する相対湿度ではなく気温に無関係な絶対湿度に深く関連していることが分かりました。
庄司医師によると、絶対湿度が、11g/m3以下になったとき、インフルエンザが流行し始め、7g/m3以下でインフルエンザの感染が拡大するという結果が出ました。

つまり家庭内でも室内の絶対湿度を 11g/m3以上にすれば、感染のリスクを少なくでき、反対に 11g/m3以下になった場合には要注意で、湿度を上げるなどのインフルエンザ対策をとったほうがいいと庄司医師は提唱しています。
また海外でも、2009年にオレゴン州立大学Jeffrey Shaman助教授らが、同様の発表をしており、インフルエンザの感染力は、絶対湿度に強く関連していると報告しています。
Shaman助教授らは、インフルエンザの感染力は気温に左右される相対湿度との関連性は弱いとし、過去のデータを相対湿度ではなく絶対湿度に置き換えてインフルエンザの感染力との相関性を分析したところ、インフルエンザウイルスの生存(ウイルスが空気中に浮遊してから生存し続ける時間)は絶対湿度に強く関係していることが分かりました。
つまり絶対湿度が低いと、インフルエンザウイルスが長時間空気中に生存してるためインフルエンザにかかりやすくなり流行が拡大するというのです。

上の表でも分かるように相対湿度50%では、気温によりインフルエンザウイルスの生存率が変わってくるため、インフルエンザ予防の目安としては、信頼度が低いことが分かります。
インフルエンザの冬の流行時期には、室内の絶対湿度を 11g/m3以上にすることがインフルエンザ予防の目安となりますが、では具体的に、絶対湿度 11g/m3以上ってどの位の湿度なのでしょうか。次に詳しく見ていきましょう。
インフルエンザ予防の絶対湿度はどうしたら分かるの?
絶対湿度は、温度と相対湿度が分かれば、そこから求めることが出来ますが、その計算はややこしくて、温度と湿度が変わるたびに計算するのも大変です。
というわけで私のような凡人には、下記のような絶対湿度表が参考になります。

厚労省は、冬のインフルエンザ予防には、室内の湿度を加湿器などを使って、50~60%(相対湿度)に保つことを推奨しています。
たとえば、室温20℃の場合、相対湿度50~60%は、絶対湿度でいうと、8.7~10.4g/m3 となり、絶対湿度によるインフルエンザ流行予測から見ると「注意」の範囲に入るので、インフルエンザに感染しやすい湿度といえます。
それに対して少し気温を上げて室温25℃の場合には、相対湿度50~60%を絶対湿度に換算すると、11.5~13.8 g/m3 となり、インフルエンザ流行予測から見ると「ほぼ安全」の範囲に入るのでインフルエンザに感染しにくい湿度となります。
このように同じ相対湿度50~60%でも、室温によってインフルエンザに感染しやすいかどうかは変わってきます。

気温と湿度は1日の間でも変化していくので、その都度、室内の湿度を気にしているわけにもいきませんし、絶対湿度表をたびたび見るわけにもいきません。
そのため近年は、絶対湿度を用いた便利なインフルエンザ警報計も販売されています。これは、絶対湿度によるインフルエンザ流行予測を、アラームや色などで教えてくれるので、インフルエンザ予防への注意喚起として使われています。
ご自宅や会社などの室内に置いておくだけで、インフルエンザの感染率が高まる湿度になると、自動的にアラームや色で教えてくれます。アラームが鳴ったときに加湿器や濡れたタオルなどを室内にかけて加湿すればインフルエンザ予防になります。
机の上に置いたり壁にかけたり、ポケットサイズの小さなものもあり、夏には熱中症指数で熱中症対策としてもお使いいただけます。お値段は数千円からありお手ごろ価格のものもあります。
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またスマホの無料アプリの中にも、絶対湿度によるインフルエンザ流行指数を表示してくれるものもあり、インフルエンザの警戒・予防として使われています。
ただしスマホの無料アプリは、室内の絶対湿度ではなく屋外の絶対湿度になるので、ご自宅や会社などの室内のインフルエンザ流行予測は測れないようです。
インフルエンザ予防には絶対湿度による湿度管理が大切ですが、しかし、インフルエンザの主な感染経路は、咳・くしゃみのしぶきによる飛沫感染なので、湿度を上げても飛沫感染は防げませんので、マスクによる予防も忘れないようにしましょう。
また、湿度70%以上になるとカビの発生も心配になりますので注意が必要です。
それでは次に、熱帯地域では、なぜインフルエンザが雨季に流行するのか、その理由について一緒に見ていきましょう。
インフルエンザは熱帯地域で、なぜ雨季に流行するの?

インフルエンザの流行に、絶対湿度が深く関わっていることは既に見てきましたが、しかし、絶対湿度の理論では熱帯地域の雨季のインフルエンザの流行は説明がつきません。
亜熱帯地域の沖縄では、夏にもインフルエンザが流行しますが、沖縄の夏は、高温多湿で絶対湿度も高いです。
沖縄で、夏にもインフルエンザが流行する理由は諸説あるようです。
- エアコンの急速な普及により夏でも空気が乾燥するようになったため
- 夏にインフルエンザが流行している東南アジアなどからの旅行者が増えたため
しかし、日本やヨーロッパなどの温帯地域では、冬の乾燥した時期にインフルエンザが流行するのに対して、北半球の熱帯・亜熱帯地域では、なぜ雨季にインフルエンザが流行しやすいのかについては、まだはっきりと理由は分かっていません。
たとえば熱帯地域のタイでは、雨季にインフルエンザが流行しますが、タイの雨季は高温多湿で絶対湿度もとても高いので、日本の冬のインフルエンザの流行のように絶対湿度の理論では、インフルエンザの流行は説明がつきません。

この件に関して、米国のバージニア工科大学環境工学の准教授リンゼイ・マー氏らが発表した興味深い研究報告があります。
“Journal of the Royal Society Interface” に掲載された米国の研究により、この謎の解明が進みました。 湿度が100%に近いか、あるいは50%未満のときに、ヒトの粘膜に取り付いたA型インフルエンザ・ウイルスの生存率が最も高くなるというのです。
引用:最新健康ニュース
内容がちょっと難しくなってきたので、この研究報告を簡単にまとめてみます。
- インフルエンザウイルスは、湿度が低すぎるか高すぎるとき(相対湿度50%未満か、あるいは相対湿度100%近くか)に感染力がもっとも強くなる。
- 湿度が低いか、あるいは極端に高くなると、気道の防御機能(ウイルスなどを排出する粘液線毛機能)が外気の湿度との兼ね合いで上手く働かなくなり、そのためインフルエンザウイルスの侵入を簡単に許してしまう。
- 湿度が50%以上の中程度の時には、気道のウイルス排出力が最も活性化されるのでインフルエンザの流行は起こりにくい。
- 湿度は、気道粘液のNa濃度に影響を与え、気道のNa濃度はインフルエンザウイルスの生存に影響を与える。
簡単にまとめても、やはり難しいですね(^^;;
つまり、この理論だと、インフルエンザが温帯地域の冬(湿度50%未満)と熱帯・亜熱帯地域の雨季(湿度100%近い)の2つのタイプの気候に起こりやすいことの説明もつきます。
絶対湿度によるインフルエンザ流行予測の理論は、ウイルス側の空気中の生存に視点を置いたものに対して、マー氏らの理論は、人間側から見た気道の防御機能の働きに視点を置いたものといえるでしょう。
また、この他のインフルエンザの流行因子としては、紫外線量の要因や室内で過ごす時間が増えることによる感染機会の増加などの環境要因も考えられているようです。

インフルエンザの冬の流行時期には、室内の絶対湿度を11g/m3 以上にすることがインフルエンザ予防の目安となります。
またインフルエンザは、冬の乾燥した時期だけではなく、北半球の熱帯・亜熱帯地域の雨季にも流行しやすくなります。東南アジアなどの常夏の国の雨季に旅行する際には、インフルエンザ予防対策も心がけるとよいでしょう。
- 季節とインフルエンザの流行 庄司真著
- 「気象と感染症流行の相関に関する研究第二報 -インフルエンザ流行の拡大因子は気温か、湿度か、その他か-」 庄司真著
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