アスペルガー症候群が遺伝する確率は高い?他にもある発症要因とは


親子の風景のイメージ画像
アスペルガー症候群が遺伝する確率は高いのでしょうか?

アスペルガー症候群の人が結婚する場合、自分の子供にアスペルガー症候群が遺伝するかどうかは、非常に気になるところだと思います。

そこで今回は、アスペルガー症候群は遺伝するのか、また遺伝以外にアスペルガー症候群の発症要因として、どのようなものが考えられているのかについて、まとめてみました。

アスペルガー症候群が遺伝する確率は高い?低い?

両親と赤ちゃんのイメージ画像
アスペルガー症候群は、知的遅れはないものの、自閉症スペクトラムの一種と考えられています。自閉症スペクトラムの中でも、アスペルガー症候群は、言葉の遅れを伴わない軽症タイプと位置づけられています。


アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラム(ASD)の原因は、かつては、冷たい子育てが原因で起こると考えられ、母親が非難された時期もありました。


しかし現在では、親の養育態度が原因で起こるという考え方は否定され、遺伝的要因が大きく関与して、脳の機能障害をひき起こすという考え方が主流となっています。

その根拠となったのが、双子や家族を対象にした研究です。

双子を調べた調査では、同じ遺伝子を100%共有する一卵性双生児の場合、二人とも自閉症を発症する確率は、60~90%だったのに対して、遺伝子を50%共有する二卵性双生児の場合には、二人とも自閉症を発症する確率は10%以下でした。

一卵性二卵性の遺伝率のイラスト

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これらの研究から、アスペルガー症候群を含めた自閉症スペクトラムの発症には、遺伝子が強く関係していると考えられ、実際、自閉症の人の近親者には、アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラムが、1~2割の発生頻度で見られるといいます。


自閉症の研究で知られるイギリスの発達心理学者バロン・コーエンの研究によると、自閉症スペクトラムの近親者には、「メカに強い」「物理的な思考が得意」「記憶力に優れている」などの傾向が見られ、エンジニア・物理学者・数学者・会計士などの出現頻度が、一般の子供の近親者と比べて際立って多いと報告しています。


さらに、父親の年齢が上がると、自閉症スペクトラムの子どもが生まれる確率が高くなるともいわれています。


アメリカ疾病予防管理センターの調査によると、第一子に自閉症スペクトラムの子どもが生まれたカップルが、第二子にも自閉症スペクトラムの子どもが生まれる確率は、2~18%。

アスペルガー症候群については、片方、あるいは両親がアスペルガー症候群の場合、その子どもがアスペルガー症候群を発症する確率は高くなると考えられています。

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ただし、一つの遺伝子によって、自閉症スペクトラムが引き起こされるといった単純なものではなく、複数の異なる遺伝子が組み合わさることによって障害が起きる多因子遺伝だと考えられています。


多因子遺伝とは
複数の遺伝子と環境要因が関係して起きる遺伝現象


症状のばらつきや重症度の違いは、自閉症スペクトラムの発症に関与している複数の遺伝子の組み合わせによって生まれると考えられています。

自閉症では、不利な組み合わせが多く揃っていると考えられ、アスペルガー症候群や高機能自閉症では、一部だけが揃っていると考えられています。

つまり、その遺伝形質がたくさん集まると障害となり、ほどよくあると、アスペルガー症候群のように、ある種の才能や優れた特性にもなるということです。


アスペルガー症候群は、遺伝する確率が高いと見られてはいるものの、発症の原因は、単に遺伝的要因だけではなく、その他の要因も加わって脳の機能障害を引き起こすと見られています。

つまり、「アスペルガー症候群になりやすい遺伝子を受け継いだ」ことが、イコール「アスペルガー症候群になる」ということではありません。


アスペルガー症候群の遺伝の黒板画像

それでは、遺伝以外にどのような要因がアスペルガー症候群の発症要因と推測されているのかについて、次に一緒に見ていきましょう。

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遺伝以外のアスペルガー症候群の発症要因とは

アスペルガー症候群に、遺伝的な要因が大きく関わっていることは間違いないにしても、発症しやすい遺伝子を持っていても発症しない人もいます。

一卵性・二卵性双生児の研究により、同じ遺伝的要素を持っていても、育った環境によって、その遺伝的要素が出る場合と出ない場合があることが分かってきました。


つまり遺伝子は、環境に影響されるということです。

その事をより強く示唆するイスラエルで行なわれた興味深い研究があります。

(以下、岡田尊司氏のアスペルガー症候群より抜粋)

イスラエルには児童全員のよく整ったデータベースがある。それを用いて、広汎性発達障害(自閉症スペクトラムとほぼ同義)と、その子どもの背景を調べたところ、注目されるべき結果が得られた。

イスラエルは移民の国であるが、ヨーロッパだけでなく、アフリカや新大陸からもユダヤ人が移り住んできている。

ヨーロッパで生まれて、イスラエルに渡った人と、アフリカで生まれてイスラエルに渡った人を比べると、ヨーロッパで生まれた人は、イスラエルに生まれた人と同じ割合で、広汎性発達障害が見られたが、アフリカで生まれた子どもには、まったく見当たらなかったのである。

この結果は、何らかの文明的要因が広汎性発達障害の増加と関係しているということを強く示唆している。


アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラムの発症に関係している環境的要因については、これまで幾つもの説が取り上げられてきましたが、まだはっきりと特定されていません。

胎内環境や周産期のトラブル(低出生体重児、異常分娩、未熟児、妊娠高血圧症候群、母体感染症など)が、アスペルガー症候群の発症に影響を与えているとする説もあります。


また近年の研究によると、子どもの頃に身体的・精神的虐待を受けた女性は、虐待を受けたことのない女性と比べて、自閉症スペクトラムの子どもを出産するリスクが60%も高まるという報告もあります。

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◆環境ホルモンが胎児の脳に影響を与える?


環境ホルモンによる周産期トラブルのイラスト


自閉症スペクトラムの原因の一つとして、化学物質などの環境ホルモンが遺伝子の働きに影響を与えるという説があります。この考え方を「エピジェネティクス」といいます。

子供が母親の胎内にいるときに、母親の体が、化学物質などの環境ホルモンの影響を受けると、胎児の脳が発達する過程でなんらかの障害が起きて、知能や性格、行動にも変化を起こすことが報告されています。

発達障害に関係する化学物質として考えられているのは、ダイオキシン(プラスチックが不完全燃焼したときに発生する環境ホルモン)、ポリ塩化ビニール、ビスフェノールA(プラスチックのポリカーボネートやエポキシ樹脂などの原料)などです。

(出典:図解 よくわかる大人のアスペルガー症候群 上野一彦著・市川宏伸著)


このようにアスペルガー症候群は、遺伝的要因や環境的要因などが複雑に関与して起こると考えられています。

では、アスペルガー症候群の人の脳の中では、どのようなことが起こっているのでしょうか。次に一緒に見ていきましょう。

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アスペルガー症候群の特徴は、脳の機能不全から起こる症状

脳の各部位の画像
MRIやPETなどの画像検査によって、アスペルガー症候群の人は、脳の側頭葉の一部や、前頭前野、扁桃体などが十分に機能していないことが分かってきました。


前頭前野
この部位が障害されると、人の気持ちを推測することが困難になる。

側 頭 葉
人の顔や表情、しぐさなどの理解に関係する部位で、ここが障害されると、人の表情を読むことが難しくなる。

扁 桃 体
恐怖心や不安、好き嫌いといった情動に関わる部位。この部位が障害されると、情動を上手くコントロールできなくなり、好き嫌いなどが極端になる。

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このように、アスペルガー症候群の人の脳の働きと、アスペルガー症候群の行動特性とは、深く関係していますが、これだけでは、多岐にわたるアスペルガー症候群の特徴的な行動の全てを説明できません。

そこで現在では、脳の特定部位が十分に機能していないだけでなく、セロトニンなどの神経伝達物質(他にGABA・グルタミン酸・アセチルコリン・オキシトシン)を含む脳の複数の機能が上手く働かず、その影響が脳全体のネットワークに及んでいるのではないかと考えられています。

本を読む子ども

アスペルガー症候群の人には、脳の機能不全があります。しかし、脳には代替機能があり、別の部位を働かせることによって、同じ能力を身につけることは可能です。

アスペルガー症候群の子が成長とともに人の表情の意味を理解するようになるのも、脳の別の部位を上手く働かせているためです。


このように、アスペルガー症候群の元々のハンディは、成長する過程で、補われることも可能です。現に、そうして社会の中で活躍しているアスペルガー症候群の人たちもたくさんいます。

そのためには、周囲の温かい理解と、早期発見・早期療育が大切で、ソーシャルスキルを早い段階から身に付けることが大切です。

そうすることによって、アスペルガー症候群の人は、生きづらさを感じる場面が減り、本人の持っている優れた個性を発揮できるのです。

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まとめ

親子の風景画像

アスペルガー症候群の原因は、まだはっきりと解明されてはいませんが、遺伝する確率は高いと考えられています。しかし、アスペルガー症候群になりやすい遺伝子を受け継いだからといって、それですべてが決まるというわけではありません。

遺伝子が発現されるかどうかは、環境によって大きく左右されます。アスペルガー症候群の発症を促進する環境要因には、いろいろな説がありますが、まだはっきりとは特定されていません。

いずれにしてもアスペルガー症候群の発症の原因は、単一ではなく、遺伝的要因や環境的要因など複数の要因が絡み合って起こるのではないかと考えられています。



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参考書籍
  • アスペルガー症候群 岡田尊司著
  • 図解よくわかる大人のアスペルガー症候群 上野一彦著・市川宏伸著
  • これでわかる自閉症とアスペルガー症候群 田中康雄著・木村順著
  • アスペルガー症候群の子どもたち 飯田順三編著・太田豊作著・山室和彦著
  • はじめに読むアスペルガー症候群の本 榊原洋一著
  • 専門医に聞くアスペルガー症候群 梅永雄二・市川宏伸監修




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