ADHDの子供の治療 どうすれば親子が楽になれるのか


ADHDの子供は、その特性のために、イジメやからかいの対象になることも少なくありません。友達とケンカになることも多いため、学校でも孤立しやすく、不登校になる子供もいます。

ケンカして先生に叱られるADHDの子供C

また周囲から理解されず、適切なサポートを受けられなかったADHDの子供は、成長と共にうつ病などの二次障害を引き起こすこともあります。

子供の生きづらさを解消し、二次障害を防ぐためにも、早期の治療が大切です。ADHDの子供は、治療によって自己コントロール力が次第に身についていき、落ち着いて過ごせるようになっていきます。

そこで今回は、ADHDの子供の治療法には、どのようなものがあるのかをまとめてみました。

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ADHDの子供の治療法

治療の意味

ADHD(注意欠如多動性障害・注意欠陥多動性障害)の子供は、次の3つの基本的な特性をもっています。

◆不注意
◆多動性
◆衝動性

この特性は、忘れ物が多い、じっとしていられない、順番を待てないなどの症状として表れてきます。

これらの症状は、遺伝的要因と環境的要因の相互作用によって起こると考えられていますが、はっきりとしたことはまだ分かっていません。

ADHDの特性は、脳の個性のようなものなので、「風邪が治る」「怪我が治る」というのと同じ意味で「ADHDが治る」ということはありません。

しかし、治療により改善は可能です。早い段階から治療を受けることによって、子供の「困った」を減らしていくことができます。

そして、子供の生きづらさを解消することによって、その子の長所を伸ばしていくことができ、その結果、ADHDの子供は自分に自信が持てるようになり、二次障害を防ぐことに繋がるのです。

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医療機関での治療のスタンダード

ADHDの子供の治療は、日本では厚生労働省研究班の成果である「ADHDの診断治療ガイドライン」が、臨床医のスタンダードとなっています。このガイドラインでは、ADHDの子供の治療の基本は、下の図の4つの柱から成り立っています。

ADHD治療ガイドライン
これで治療効果が上がらないときに、ペアレントトレーニングやソーシャルスキルトレーニング(SST)、地域の諸機関との連携強化、併存障害に応じて遊戯療法などの心理療法も行っていくことが推奨されています。


治療の基本は家庭生活での取り組み

ADHDの子供の治療というと、専門家でなければできないことと思う人がいるかもしれません。しかし治療の基本となる環境調整や対応の仕方は、家庭でもできることです。

ADHDの治療は、子供が苦手な面をどうやったら(おぎな)えるかを教え、生活の中でいろいろ工夫することによってADHDの特性をカバーできるように教育していくことです。

そのためには、親自身が子供の特性への理解を深めることが必要です。診断や専門家の治療は、それを手助けするものです。

では、具体的にどのような治療をしていくのでしょうか。次に一緒に見ていきましょう。

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環境調整


環境調整とは、子供の困り感に沿って、子供が生活しやすいように周囲の環境を工夫することです。子供の生活の場である家庭、学校、園のそれぞれの場において行なわれます。

家庭においては…
ADHDの環境調整
  • 行動のスケジュールを、目立つ所に分かりやすく書いておく
  • 子供の机の周りには、気が散らないように余計な物は置かない
  • 基本的な生活パターンを整える
  • 翌日、用意するものを曜日別にカードにして分かりやすくする
  • 子供部屋は、カーテンやブラインドで外からの刺激を防ぐ

家庭での対応(接し方)は…

子供を褒める母親
  • 体罰をしない
  • 子供への話し方を変える。暴言・怒鳴る・言葉で傷つけることを止める
  • 注意する回数を減らす(何を注意するかを選ぶ)
  • ほめて育てる
  • 子供の言動を頭ごなしに否定せずに、話をよく聴く
  • 失敗しても叱らずに、どうすれば良かったのかを具体的に教える

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学校においては…
授業風景
  • 座席は最前列の中央に
  • 周りに模範的な生徒を座らせる
  • 黒板や周囲の壁の提示物は最小限に。子供の気を引きそうなものはカバーをかけたり教室の後ろに置く
  • 指示は具体的に簡潔に
  • 指示は一度にひとつずつ
  • 授業に集中できる時間が短い子の場合、集中が切れそうになったら、プリントを配る役を与えたり、黒板を消す役を与えて、授業に参加しながら動くことのできる役割をつくる


ADHDの子供は、どうしても文句を言いたくなる行動が多いものです。子供の行動を見て、親は「こんな事もできないのか」と、ついきつく言ってしまいがちです。

そのような場合には、親がペアレントトレーニングで子供への適切な対応の仕方を学びます。親が対応の仕方を変えることで、子供の困った行動を減らし、適切な行動を増やすことができます。

ADHDの子供への対応のコツ
子供への対応のコツは、怒鳴ったり、責めたり、たたいたりすることを止めて、子供のよいところを見つけ、意識的にほめることです。

子供は「ほめられたい」という欲求を常に強く持っています。子供にとって「ごほうび」となるような()め方を親が身につければ、子供はよい行動を増やしていけるようになります。

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★ペアレントトレーニング(通称ペアトレ)とは



ペアレントトレーニングとは、同じ悩みをもつ親が集まり、親が子供への対応を学ぶ治療法のことです。米国・英国・カナダなどでは、ペアトレは治療の基本として強く推奨されており、ADHDの治療の中でも非常に有効な治療法といわれています。

8~10回ぐらいのセッションで、毎週決まった時間(1~2時間)、指導者のもとに5~10人ほどの父母が集まり学習していきます。同じような悩みをもつ親たちとの交流を通して、お互いに元気をもらうこともできるでしょう。

日本では医療機関だけでなく、療育機関などでもペアトレが行われるところが増えています。

もしお近くに、そのような場所がないときには、本を読んで自分でやってみることもできます。(参考:読んで学べるADHDのペアレントトレーニング むずかしい子にやさしい子育て)



ペアレントトレーニングの主な内容
  • ADHDの特徴についての説明
  • 子供の行動を分類して説明
  • 子供のよい部分へ目を向ける練習
  • 子供を()める練習
  • 基本は「とにかくすぐ褒める」
ペアレントトレーニング

ほめ方のコツ
行動が始まったらすぐに褒め、終わったあとも、すかさず褒める。
基本は「とにかくすぐほめる」。時には反省をうながしながら褒める。
褒めるときには、目と目を合わせて。
抱きしめたり頭をなでるのも良い。
ボディタッチをいやがる子供には言葉やサインだけで伝える。
褒め言葉は簡潔に。「上手に○○できたね!」「○○してくれてありがとう」

  • 好ましくない行動をしたときには無視する練習
  • 効果的な指示の出し方やポイント制(ごほうびのシールなど)の説明


では次に、ADHDの治療法の一つである心理療法(心理カウンセリング)について、一緒に見ていきましょう。

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心理療法


ADHDの子供たちは、幼い時からその特性のために何かとトラブルのタネになることが多いものです。

自分の中の衝動性や不注意の特性を抑えることができず、頭ではよく分かっていても同じ失敗を繰り返してしまいます。

その結果、どこにいっても叱られたり笑われたりする機会が、他の子供たちよりも、とても多いのです。

どんなに頑張っても、また叱られるんだ、また笑われるんだ、と思うと、誰でもおもしろくありません。ADHDの子供たちは、このように失敗体験の多さから日常的に強いストレスを感じています。

ADHDの子供たちの苦悩
その結果、ある子は自分のことをからかう周囲の者に対して攻撃的になったり、また、ある子は、失敗への不安や疎外感から内に閉じこもるようになります。

心理療法は、このような子供の心の傷や混乱を修復し、自分自身のことや周囲の人の言動を理解していけるように手助けするものです。

子供の心理は成長と共に変わっていくので、心理療法も子供の成長段階に応じてアプローチの方法を変えていく必要があります。

心理療法は、定期的に面談の時間を設けて行うのが一般的ですが、治療者は医師にかぎらず臨床心理士などが担当することもあります。

心理療法にはプレイセラピー(遊戯療法)、行動療法、認知療法、家族療法などがあります。

ADHDの子供に対する心理療法は、年齢によっても異なってきますが、基本的なものとしては、ソーシャルスキルトレーニング(SST)が行われます。

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★ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは


ソーシャルスキルとは、人と上手に接する能力のことです。友達とのかかわり方が下手な子、トラブルを起こしやすい子には、ソーシャルスキルトレーニング(SST)が有効です。

SSTは、実際に集団行動を行うなかで「こう言えば相手に伝わる」「こうすれば皆で楽しくできる」という感覚を身につけていく体験型の治療法です。

SSTは数人の小グループを作って行います。ほかの子と共通の活動をするなかで、自分の気持ちの伝え方や、違う意見との折り合いのつけ方などを学びながら、仲間とうまくやっていくための社会的なスキルを身につけていきます。


★心理療法は子供の年齢によっても異なる


幼児期は行動療法が中心

ADHDの幼児期は、多動性や衝動性をまだまだコントロールできない段階です。衝動のおもむくまま、頭よりも手や口や足が先に動いてしまうので、何度いって聞かせても同じことを繰り返します。

行動療法には、いくつかの手法がありますが、ADHDの子供に最も一般的に用いられている方法が、トークンエコノミー法です。

トークンエコノミー法とは
トークンとは、シールやポイントカードなどの代用貨幣のことです。子供が好ましい行動をとれたり、課題ができたりしたときに、トークン(シールやポイントカードなど)を与え、目標の枚数がたまったら、ごほうびと交換できるようにします。

逆に、好ましくない行動をとったり、課題ができなかったときには、子供がためていたトークンをいったん取り上げます。こうして好ましい行動をすれば良いことがあるという動機づけを強めていきます。

またADHDの子供は、自分の要求が通らなかったときなどに、かんしゃくを起こすことがあります。普通の子供でも、こうした状況はよく起こりますが、ADHDの子供の場合は、特に興奮しやすく、かんしゃくがおさまりにくい傾向があります。

かんしゃくを起こす女児
たとえば、お店でお菓子が欲しいと要求し、その要求が通らないと、大声で泣きわめき、床にひっくり返ったりします。

こういうときは、親は子供のほうに視線を向けずに無視します。子供が要求は通らないと理解し、あきらめて静かになったら、「よく我慢できたね」と、すぐに褒めます。

これも行動療法の一環です。このように、わざと困った行動をやっている場合には無視することも必要になってきます。

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学童期は認知療法が中心

認知療法とは、ものごとの考え方や受けとり方(認知)に働きかけて、気持ちや行動をコントロールする治療方法です。

たとえば、ADHDの子供は、朝の登校の準備がスムーズにできずに遅刻が多くなりがちです。これは、ADHDの不注意の特性のために、どうしても行動がずれやすく、衝動的な行動が起こるためです。

このADHDの特性は、脳の前頭葉の働きが低下しているために起こります。

そのため遅刻が多かったり、他のことに夢中になっていると宿題をするのも忘れてしまうなど、時間感覚につまずきが見られます。

このADHDの特性をカバーするためには、日常生活の主な行動を、考えなくても行動できるように指導します。

ADHDの子供の治療法
まず、毎日の行動を、いくつかの場面に分けてノートに書きます。たとえば、7時に起きて顔を洗う、食事をする、8時に家を出るなど、毎日の行動をノートに書いて、それを読んで口に出して実行させます。

それを繰り返し行うことによって、やがてはノートを見ないでも実行できるように指導していきます。覚えておくべきことや、やるべきことを、常にカレンダーやノートやボードなどに書き込むように指導します。

カレンダーと今日の予定表A

思春期の二次的な問題には家族療法も効果的

思春期になると、多くの子供はナーバスになり、不注意・多動性・衝動性に加えて、二次的な情緒障害(うつ傾向など)が現れてきます。

ADHDの子供は、思春期になるまで周囲から強く叱責されたり、非難されたりする機会が多いため、劣等感を抱えやすく自信を失いがちです。

海外のデータでは、ADHDの子供の最大45%に、うつ傾向がみられるという報告もあります。

ADHDの子供は、うつ病や不安障害などを合併しやすくなります。これらの症状が現れる要因に、家族や先生の接し方が、子供の精神状態に影響を与えている場合が少なくありません。

そこで子供が抱えてる問題を、家族全体の問題としてとらえ、修復していこうとするのが家族療法です。家族療法は、子供の不登校、家庭内暴力などが改善しやすい治療法でもあります。

不登校に悩むADHDの子供と両親
家族相互のコミュニケーションのパターンを振り返り、子供に対する指示が過剰になっていないか、逆に子供の言いなりになっていないかなど、家族関係を見直し、調整をはかります。

家族療法では、面談を1~2ヶ月に1回くらいの割合で行います。毎回、家族全員がそろわなくても、両親だけ、あるいはどちらか一方の親だけで面談を受けることもあります。

精神科や小児科、カウンセリングセンターに家族療法を行っている専門家がいます。

また、子供時代にADHDだった親、アルコール依存やうつ病などの問題を抱えている親に対しては、心理カウンセリングが必要になることもあります。

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★ワーキングメモリートレーニング


脳の前頭葉のイラストA
ADHDは、ワーキングメモリー(WM)に問題があることが分かっています。コンサータやストラテラといったワーキングメモリに影響を与える薬物がADHDに効果があるのも、そのためです。

ワーキングメモリ(作業記憶)とは、前頭葉がつかさどっている働きの一つで、情報を一時的に保持しながら、同時に適切に処理する能力のことです。

つまり、ワーキングメモリが弱いと、自分が何をしなければいけないのかを覚えているのが困難になり、やるべきことをすぐに忘れてしまいます。

ワーキングメモリは、会話や暗算、思考、推論などに大きく関係し、日常生活や学習を支える重要な能力です。発達障害の子供の多くは、このワーキングメモリに問題を抱えています。

心理領域では、ワーキングメモリーの機能を向上させるコンピュータによるトレーニングが行われています。

有名なものとして、スウェーデンのクリングバーグが開発したコグメドのトレーニング、とスコットランドからアメリカに移ったアストンが開発したジャングルメモリーがあります。

両者ともに効果があることは実証されています。日本でも行われているので、服薬に抵抗がある場合には、試みてもよいかもしれません。 

(出典:子どものADHD 早く気づいて親子がラクもなる本 監修 宮尾益知)


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薬物療法

◆薬物療法は補助的な手段


薬は、一時的に症状を抑え生活しやすくするための対症療法で、あくまでも補助的な手段です。ADHDは、発達障害の中でも薬が効くことが多く、60~70%の子供に有効だといわれています。

薬物療法を行う際に最も大切なことは、薬物療法をするとき、またはする前に、必ず環境調整や心理社会的治療(対応の工夫など)を行うことです。

ADHDは薬だけでは改善できないため、薬物療法単独の治療・支援というのはありえません。

薬で、ある程度症状を抑えながら、子供に安定した状態を経験させ、その間にライフスキルを身につけさせ、薬がなくても、その状態になれるようにしていくことが薬物療法の目標です。


◆どの程度の症状のときに薬物療法を行うのか


薬以外の方法で十分に効果があらわれている場合には、薬物療法は必要ありません。いろいろな対応をしても十分な効果が得られず、子供がかなり困った状況である場合や、怪我や事故などの心配がある場合には薬物療法も考えます。

薬物療法を行うかどうかを決めるカギは、子供本人が学校生活や日常生活を送るうえで、どのくらい困難を感じているかです。

ADHDの治療のガイドラインでは、障害のために中程度以上の困難(友達がほとんどいない、クラスメートや先生とのトラブルが起きるなど)が生じているときに薬物療法を行うことになっています。(出典:ADHD これで子どもが変わる 司馬理英子著)


◆薬はどのくらいの期間、飲み続けなければいけないのか


薬をどのくらい飲み続けなければいけないかは、その子供の症状と環境によって異なります。

日本での治療のガイドラインでは、1年から2年程度の服用期間をめどにしていますが、数ヶ月で薬を必要としなくなる子供もいれば、何年も薬が必要な子供もいます。

子供は成長と共に、さまざまな経験を重ね、学習していくによって自己コントロール能力を身につけていきます。そのため、薬物療法は行動療法と組み合わせた場合に、最も効果があります。


長期服用に関しては、成長遅延や体重増加の抑制などの可能性もありますので、慎重投与が望まれます。

長期服用に関しては、製薬会社の使用ガイドにも「定期的に休薬期間を設定して、薬の有用性の再評価を実施すること」と書かれてあります。(参考:コンサータ適正使用ガイド ヤンセンファーマ株式会社

ADHDの治療は、薬がよく効いていても、それに頼りすぎないことが大切です。

薬物療法は、あくまでも環境調整や心理社会的治療などの効果が出てくるまでの一時的な補助手段であることを心得ておくようにしましょう。


◆ADHDの2種類の薬


現在日本で使用可能なADHD治療薬は、メチルフェニデートの徐放剤であるコンサータと、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬アトモキセチンの製剤であるストラテラのみです。この2種類のADHD治療薬に保険適用が認められています。

ガイドラインでは、第一選択薬としてコンサータまたはストラテラのいずれかを選び、効果があれば維持療法へ、効果が不十分であれば第二選択薬として選択しなかった薬剤を用いるとあります。

では次に、2種類のADHD治療薬について、さらに詳しく見ていきましょう。

★コンサータ

1日1回朝食後だけ服用するタイプの薬です。コンサータは、脳内のドーパミンの量を増やす中枢神経刺激薬で、ADHD特有の注意力の散漫さや、多動・衝動性が抑えられます。

以前は、同じ成分のリタリンという薬が使われていましたが、依存性が高いため、現在はリタリンのADHDへの処方は打ち切られています。

コンサータは、徐放剤(じょほうざい)という、ゆっくり効果を発揮する加工がされているので、薬の血中濃度が急激に上がらないので、リタリンよりも依存性は低いとされています。

ただし、ADHDの子供の中には、メチルフェニデート(コンサータ、リタリンに含まれる有効成分)が効かない、あるいはこの系統の薬剤による副作用(著しい食欲減退、深刻な睡眠障害、チックなど)に耐えられない子供が、約15~30%とかなりの割合で存在します。

コンサータは服用してから約10~12時間ほど、効果が持続するので、学校生活に改善が見られることが多いです。ただし、効果の持続時間に関しては、個人差があります。

比較的多い副作用としては、食欲不振、吐き気、口の渇き、便秘、不眠、頭痛、体重減少などです。チック、トゥレット症候群の子供には使えません。

★ストラテラ

1日2回、通常は朝食後と夕食後に服用するタイプの薬です。1日を通して効果があるため、夜の宿題や朝・夜の生活改善にも効果が期待できることが多いです。

ストラテラは、主に脳内のノルアドレナリンの量を増やすことで集中力を高め、段取り、時間概念を改善する効果があります。

コンサータに比べて効き目は穏やかで、効果が現れるまでに1ヶ月ほどかかりますが、依存性は低く、チック、トゥレット症候群のある子供にも使えます。主な副作用は、食欲不振、吐き気、腹痛、頭痛、眠気など。


感覚統合療法

うんていで遊ぶ子供
ADHDの子供は、運動が苦手だったり手先が不器用な発達性強調運動障害(DCD)や、感覚調整障害(光や音に敏感すぎるor鈍感すぎる)を併存しているケースも少なくありません。

このような場合に、感覚統合療法が有効です。ADHDの子供の中には、不器用で動きがぎこちない感じの子供がいますが、これは感覚の統合がうまくできていないためと考えられます。

たとえば、ボールをキャッチする動きは、ボールの動きを目で追う視覚と、関節や筋肉から伝えられる固有感覚が統合された結果ですが、ADHDの子供は、これがうまくいかないことがあります。

そこで、医師や作業療法士の指導のもと、さまざまな遊具や器具を使って体を動かしながら感覚系の発達をうながします。

感覚統合療法のイメージイラスト
そうすることによって運動のぎこちなさが改善され、感覚への過敏さ・鈍感さも和らいでいきます。姿勢にも安定感がうまれ、同時に精神的にも落ち着いていき、多動や衝動的な問題行動が軽減することが多くあります。

感覚統合療法は、家庭でも出来るものも多くあります。たとえば、ダンボールをくぐる遊びや、粘土遊び、砂場遊び、すもう、転がり遊びなど。

感覚統合療法の訓練の例
  • ブランコやトランポリンなどで姿勢がよくなる
  • タイヤ渡り、筒の通り抜けなどで、イメージ通りに動けるようになる
  • うんてい、ボール蹴りなどで、バランスがよくなる
  • 風船打ち、歌にあわせた大縄跳びなどで、視覚や聴覚と体の動きがあうようになる


★発達性強調運動障害とは


海外の報告によると、ADHDの子供の約半数(55%)に、発達性強調運動障害が見られるとあります。

ADHDのタイプ別では、不注意優勢型で64%、混合型で59%、多動性・衝動性優勢型で11%に、運動の問題が存在すると報告されています。

発達性強調運動障害の症状は…

大縄跳び
  • 縄跳びができない
  • ボールをキャッチできない
  • 階段の上り下りが苦手
  • 靴ひもが結べない
  • 服を綺麗にたためない
  • 箸やスプーン、コップがうまく使えない
  • はさみがうまく使えない
  • 字が汚い
  • 字をマス目に収められない
  • 消しゴムを使うと紙がやぶれる
  • 線がまっすぐ書けない
  • 言葉が不明瞭で聞きとりにくい


★感覚調整障害とは


感覚調整障害とは、触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚などの感覚が、敏感すぎたり鈍感すぎることをいいます。

感覚調整障害の症状は…

【視覚】
  • 周りの物が気になり、見るべき物に集中できない
  • 光をとてもまぶしく感じる
  • グルグル回り続ける
【触覚】
  • 軽く触れられても、たたかれたように感じる
  • 水の感触が苦手で、洗顔や入浴を嫌がる
  • 温度感覚が鈍く、真冬でも半そで姿で過ごしたり真夏に厚手の服を着ている
【味覚】
  • カップ麺しか食べない。しかも決まったメーカーのものに限るといった極端な偏食になりがち
【聴覚】
  • 周囲の雑音も人の話も同じように聴こえるため自分に必要な音だけを聞き分けられない
  • 大きな音が苦手
  • 呼んでも振り向かない
【嗅覚】
  • 香水のにおいなどを悪臭に感じる
  • においが混じりあってる人混みには行けない
  • 食べ物によっては、においで手がつけられない

では最後に、近年注目されてきた応用行動分析について一緒に見ていきましょう。


応用行動分析(ABA)


発達障害の子供の療育に、応用行動分析(ABA)を利用した手法がとても有効だと注目されています。

ADHDの子供の問題行動の多くは、周りの人を困らせますが、本人にとっては何かしらのメリットがあるために繰り返される行動です。

それを変えていくには、「こうすれば、もっとよいことがある」という動機づけが必要です。

まず、問題行動はどんな状況のときに起きるのか、また問題行動を起こすことで本人はどんなメリットが得られるのか、行動の前後を注意深く観察して、問題行動を正しい行動へと修正していこうという考え方です。

応用行動分析の治療例
授業中に歩き回る、突然、奇声を発するなど困った行動の多いA君。まずは「奇声を発する」行動の改善を試みました。

よく観察すると、A君は音楽、体育など教室の移動のある授業前に叫び出します。A君が叫ぶと、周囲が移動をうながし、一緒にA君を連れていっていました。

そこでまず、移動前に「次になにをするか」を絵カードで示しました。さらに、分からないときに出す「教えて」サインを決め、A君が奇声を発しても周囲は手を貸さないことを徹底したところ、A君の奇声は徐々に減っていきました。
(出典:発達障害の治療法がよくわかる本 監修 宮尾益知)

チェック噴出し
漢方治療発達障害の二次障害として表れる不定愁訴(頭痛・腹痛・睡眠障害・イライラなど)に対しては、漢方薬が有効な場合もあります。

このような不定愁訴の場合、西洋薬で治そうとすると、1つの症状を抑えると今度は別の症状が出てくるといったことになりがちです。そんなときは体質に働きかける漢方薬のほうが効果的な場合もあります。



ADHDの子供の診断・治療はどこに行けばいい?


もし、我が子が、ひょっとしたらADHDかもと思ったり、学校の先生から何らかの指摘を受けた場合には、一人で悩まずに専門家に相談してみましょう。

ADHDの子供の診断・治療は、小児神経科か児童精神科で診てもらうことができます。

専門医がどこにいるのか分からない場合には、下記の「発達障害診療医師名簿」をクリックすると医師名と病院名などが分かります。

◆発達障害診療医師名簿 

病院のほかにも、ADHDの子供たちには、さまざまな支援機関もあります。我が子を一生懸命育てているのに、周りからはしつけが悪いと非難され悩んでいらっしゃる親御さんも多いと思います。

しかし、お子さんと親御さんのつらさを理解し助けてくれる支援の手はたくさんあります。

公的支援機関
発達障害者支援センター
療育センター
保健センターや保健所
児童相談所
市区町村の担当窓口
子育て支援センター

上記の他に、ADHDを持つ人たち、そしてともに悩む家族・教師を応援するNPO法人の「えじそんくらぶ」も有名です。



おわりに


ADHDの子供のさまざまな治療法を見てきましたが、子供の状態は十人十色なので、その子に合った対応やサポートの仕方が必要になってきます。同じ子供でも、年齢によって対応の仕方を変えていかなければいけないこともあります。

ADHDの治療は、医師の力だけではうまく進められません。家族や周囲の理解と協力を得て、はじめて治療の効果が得られるのです。

ADHDの子供にとって大切なことは、その子が家族や先生に愛されて、認めてもらえていると、その子が感じられるように接してあげることです。

そうすることによって子供は自己肯定感を持つことができ、社会適応力を身につけながら自分の長所を伸ばしていくことができるのです。

ADHDの関連記事はこちらA
参考書籍
  • 子どものADHD 早く気づいて親子がラクになる本 監修 宮尾益知
  • ADHDの子どもたち 編著 岩坂英巳
  • 発達障害の治療法がよくわかる本 監修 宮尾益知
  • ADHDこれで子どもが変わる 司馬理英子著
  • 図解よくわかるADHD 榊原洋一著
  • 発達障害の子どもの心がわかる本 編者 主婦の友社
  • 図解よくわかる思春期の発達障害 中山和彦・小野和哉著




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