抑肝散の認知症への効果 アルツハイマー病の母の場合
抑肝散は、認知症の母には、かかせないお薬となっています。
抑肝散を飲む前までは、徘徊、もの盗られ妄想、怒りっぽい、夜間の興奮(睡眠障害)など、家族にとっては、辛い症状が毎日絶え間なく続いていましたが、抑肝散を飲むようになってからは、その頻度がかなり減りました。
といっても認知症そのものが良くなることはありません。認知症は、月日の経過と共に、悲しいことに母の身体を蝕んでいきます。
抑肝散は、あくまでも認知症の周辺症状(BPSD)を緩和するお薬なので、認知症そのものを治療する効果は期待できませんが、それでも、介護する家族にとって、また認知症になった母自身にとっても、抑肝散は、なくてはならないお薬となっています。
今回は、抑肝散を何年も服用してきた母を通して見た抑肝散の認知症への効果についてお話したいと思います。
今、認知症のご家族を抱えて大変な思いをされてる方に少しでもご参考になれば幸いです。
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抑肝散とは

抑肝散とは、元々は子どもの夜泣きや、疳の虫などに使われていた漢方薬です。
それが大人の神経症や不眠症にも使われるようになり、その後、高齢者の認知症の周辺症状(BPSD)にも抑肝散が効果があることが分かり、内科や精神科の先生も、認知症の高齢者に抑肝散を処方することが多くなりました。
認知症の症状には、脳の細胞が壊れることで直接起こる中核症状(もの忘れ・身の回りのことができなくなるなど)と、周りの人たちにも影響を及ぼす周辺症状(徘徊・妄想・興奮・暴力・不潔行為など)があります。周辺症状のことをBPSDともいいます。
抑肝散は、認知症の周辺症状(BPSD)に非常に効果があります。
認知症の周辺症状(BPSD)
不眠・徘徊・抑うつ気分・不安焦燥感・食行動異常・暴言・暴力・幻覚・妄想・不潔行為など。
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抑肝散加陳皮半夏とは

母の場合は、抑肝散と同じ成分が配合されてるもので、抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)という漢方薬を飲んでいます。
これは、抑肝散を用いる場合と同様の症状に使われるお薬ですが、抑肝散を用いる場合よりも、より体力が低下して、症状が慢性化している場合に使われるお薬です。一般的には、高齢者には、抑肝散よりも抑肝散加陳皮半夏のほうが多く使われます。
【 配 合 生 薬 】
抑 肝 散 | 蒼朮(そうじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)・当帰(とうき)・川闃氏iせんきゅう)・釣藤鈎(ちょうとうこう)・柴胡(さいこ)・甘草(かんぞう) |
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抑肝散加陳皮半夏 | 蒼朮(そうじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)・当帰(とうき)・川闃氏iせんきゅう)・釣藤鈎(ちょうとうこう)・柴胡(さいこ)・甘草(かんぞう)・陳皮(ちんぴ)・半夏(はんげ) |
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母の場合、抑肝散の使用前と使用後は、こんなに違う!
母は、抑肝散加陳皮半夏を飲む前は、徘徊・もの盗られ妄想・不眠・興奮・食行動異常などの困った周辺症状がありました。アルツハイマー病の治療薬のアリセプトを飲むと、その副作用で暴力・暴言も出始めました。参考:アルツハイマー型認知症の症状!経験から対応の注意点を
アリセプトを飲むのを止めると、暴力・暴言はなくなりましたが、その他の周辺症状は相変わらず毎日いろいろあり、母も私も、体力を使い果たすことも多かったです。
母は、認知症になってからは、風邪をひいても、その自覚がないので、多少の熱があってもパジャマのまま深夜に雪の積もってる外に平気で出ていきます。大雨が降っていても、外に気になることがあると、傘もささずに、母は外に出ていきます。
私は、深夜に玄関の戸が閉まる音にハッと気付いて、慌てて母を連れ戻しに外に出ていくのですが、母を落ち着かせて、いったん布団に寝かせても、またしばらくすると大雨の降ってる外に出ていきます。
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妄想・幻聴がからんでくると、私の説得にも耳を貸しません。そんな事を朝まで繰り返し、母も私も、ずぶ濡れになって、バスタオルで、母の薄くなった髪の毛からしたたり落ちる雨水を拭いていると、何ともいえない哀しみが込み上げてきて、涙が溢れました。
この夜中の徘徊が、母にとっても、私にとっても、とてもきつかったです。母は、この深夜の徘徊のために、風邪をこじらせて喘息になりました。
漢方薬局で抑肝散加陳皮半夏を処方してもらったのは、そんな酷い状態が続いている時でした。母の場合は、抑肝散加陳皮半夏を服用後2週間程で効果が現われはじめ、深夜の興奮の頻度と程度も、かなり落ち着きました。

その後は、深夜に外に徘徊に出ることはなくなり、深夜に興奮状態になっても、家の中をうろうろする程度になりました。それでも状態が悪化するときと、比較的落ち着いているときと、波のようなものがあります。
しかし、母の場合は抑肝散を使用する前と後では、雲泥の差があり、抑肝散は母にかなり良い効果をもたらしてくれています。
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一度、他の薬との併用による副作用を調べるために、抑肝散を短期間とめたことがあったのですが、抑肝散を飲まないと、母はまた酷い興奮状態になったので、改めて抑肝散の効果を痛感しました。
漢方薬は効果が現われるまで、時間がかかるといわれていますが、抑肝散の場合は、体質に合う場合には、比較的早く効果が現われやすいのかもしれません。
伯母の認知症にも抑肝散加陳皮半夏が処方されましたが、1ヶ月経たないうちに効果が現われました。
伯母の認知症の周辺症状はかなり酷く、暴力・暴言・妄想・不潔行為などがあるため、他人に迷惑がかかるという理由で、複数のデイサービスから受け入れ拒否をされたほど症状は酷かったのですが、それが抑肝散加陳皮半夏を飲み始めると、穏やかさを取り戻して集団生活も送れるようになりました。
抑肝散と抑肝散加陳皮半夏は保険適用になる
抑肝散と抑肝散加陳皮半夏は、漢方薬局で買うと高くつきますが、医師の処方で出してもらうと保険適用になるので安くなります。
我が家は最初、漢方薬局で購入していましたが、その後、内科の医師にお願いして出してもらったところ、かなり安くなりました。
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抑肝散と抗精神病薬の違い

認知症患者さんに抗精神病薬を使うと、たとえば興奮を抑える薬の場合、確かに興奮は治まりますが、薬の鎮静作用が強すぎて動けなくなることもあり、動きたくても動けずに失禁したり、さらには、寝たきりになってしまうなど強い副作用が出ることもあります。
このように高齢の認知症患者さんに抗精神病薬を与えた場合には、副作用が強く出るため使用できないケースもあり、そういうケースにも抑肝散が効果を発揮してくれる場合が多いのです。
抑肝散の場合には、抗精神病薬のように全ての面がトーンダウンするというのではなく、興奮の状態を押さえながらも、意欲の面は、向上するといったバランスの良い状態に保ってくれます。
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さらに、2005年4月に、米国の Food and Drug Administration(FDA)が、高齢者の認知症患者に非定型抗精神病薬を与えると、死亡率が高まると発表しました。
非定型抗精神病薬とは、たとえば日本で使われてる薬の薬品名としてはセロクエルなどがあります。セロクエルは、日本では統合失調症に使われる薬ですが、高齢の認知症患者さんに使う場合も多く、その場合には死亡率が高まるというのです。
母がお世話になった医師の中には、このセロクエルを処方する医師が多かったです。セロクエルに関しては、不安を持っていたので、処方を別なものに変えてほしいとお願いしたことも何度かありました。
しかし、セロクエルは容量さえ多く使わなければ問題ないという医師も多かったです。実際、セロクエルは、認知症の周辺症状には効果が高いので、使いやすいお薬ではあると思います。
そうはいっても、アメリカで、セロクエルを開発した会社が、高齢者や、死亡リスクを高める小児に、適応外用途の違法なマーケティングを行ったとして、5.2億ドルの罰金が科されたというニュースを知って、認知症の家族を持つ身としては心穏やかではありません。出来るだけ副作用の少ない薬を希望するのは当然のことだと思います。
このような背景から認知症の周辺症状(BPSD)に対して、副作用の少ない治療薬が求められるようになり抑肝散の認知症への効果が注目されるようになりました。
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抑肝散・抑肝散加陳皮半夏の副作用

抑肝散も薬なので、副作用が出る場合があります。抑肝散や抑肝散加陳皮半夏には、甘草という生薬が入っているので、甘草による副作用が出る場合があり、低カリウム血症やむくみ、血圧上昇などの症状があらわれることがあるので注意が必要です。
伯母も、抑肝散加陳皮半夏を長期間服用して低カリウム血症の副作用が出ました。母には、予防のために普段からカリウムを多く含む食べ物(野菜・果物など)をたくさん摂ってもらうようにしているので副作用が現われたことは一度もありません。
抑肝散や抑肝散加陳皮半夏を服用中は、定期的にカリウム値を血液検査で調べてもらうことが大切です。低カリウム血症は、重症化すると命に関わるものなので注意が必要です。
抑肝散や抑肝散加陳皮半夏は、認知症の周辺症状によく効く薬ですが、誰にでも効くとは限りません。抑肝散であまり効果のみられない方もいるので、その際には、別の漢方薬を処方してもらう方法もあります。その際には、漢方薬について詳しい専門家にご相談なさるのがいいと思います。
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抑肝散や、抑肝散加陳皮半夏は、高齢者の認知症の周辺症状の緩和に効果があります。
しかし高齢者の場合には、他のお薬を服用してる場合がほとんどなので、他のお薬との相互作用による副作用の危険性も十分配慮する必要があります。
まれではありますが、他のお薬を数多く(異常なほど多く)服用してる高齢者の方に抑肝散が処方され数日後に亡くなったという痛ましいケースもあります。
抑肝散を内科や精神科で処方された場合には、その医師が漢方薬にも精通してる方ならいいのですが、中にはそうでない医師も残念ながらいるので、気になる症状が出てきた場合には、漢方医にご相談なさるのがいいと思います。
直接相談に行けない場合には、ネットで無料で漢方相談をしてくれてるサイトもありますので、まずは、そちらでご相談なさるのも手かと思います。
抑肝散の研究は、盛んに行われています。抑肝散が、単に認知症の周辺症状を抑えるだけでなく、認知症の進行そのものを遅くする効果もあるのではないかという研究も進んでいるそうです。今後の研究に大いに期待したいところです。
◆ココナッツオイルを食事に取り入れることによって認知症に効果がある場合もあります。→ ココナッツオイルの認知症への効果 摂取量はどのくらい?
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参考文献:決定版 漢方 花輪壽彦 著
(北里研究所 東洋医学総合研究所所長)
100歳まで元気にすごす漢方読本
杵渕 彰 著(漢方医)
絵でわかる漢方医学
入江祥史 著(内科医・漢方医)
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